時代小説

『信長の原理』(垣根涼介)感想・書評・レビュー【評価:★★★★★】

■目次

・内容

・感想、書評、レビュー

・著者略歴

1:内容

(上)
吉法師は母の愛情に恵まれず、いつも独り外で遊んでいた。長じて信長となった彼は、破竹の勢いで織田家の勢力を広げてゆく。

だが、信長には幼少期から不思議に思い、苛立っていることがあった―どんなに兵団を鍛え上げても、能力を落とす者が必ず出てくる。そんな中、蟻の行列を見かけた信長は、ある試みを行う。

結果、恐れていたことが実証された。

神仏などいるはずもないが、確かに“この世を支配する何事かの原理”は存在する。

やがて案の定、家臣で働きが鈍る者、織田家を裏切る者までが続出し始める。

天下統一を目前にして、信長は改めて気づいた。

いま最も良い働きを見せる羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益。

あの法則によれば、最後にはこの五人からも一人、おれを裏切る者が出るはずだ―。

(下)
信長が天下統一へと邁進する中、織田家中では羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益ら師団長たちが苛烈な出世争いを続けていた。

が、“この世を支配する原理”によれば、5人のうちの1人は必ず働きが鈍り、おれを裏切る。

いったい誰が?焼けつくような駆け引きは、やがて「本能寺の変」の真相へと集束する。

理想を追い求めた異端児の苦闘と内面をまったく新しい視点から抉り出し、人間の根源に肉薄した歴史小説の金字塔。
※「BOOK」データベースより

2:感想、書評、レビュー

評価:★★★★★

(上)
おもしろい!僕は歴史の知識が浅く、名前は聞いたことあるけど、具体的に何をしたかはよくわからないという武将がほとんど。

そんな僕でもこれはおもしろいと思った。

なにがおもしろいかというと、本のタイトルにもあるとおり「信長の原理」ニアリーイコール「信長の思想」。

つまり天才と言われた信長の頭の中を覗き見したような感覚になれる。

物語自体は史実に基づいたフィクション。(上)では織田家のお家事情から桶狭間の戦いや金ヶ崎の戦いあたりまで。

信長があの時何を考え、何を思ったのか、結果としてどのような行動をとったのか、歴史がどのようにして歴史になったのか。

歴史がつくられたプロセスを信長の思考に沿って覗き見する。

働きアリの法則(8:2の法則)に思考を巡らせるシーンも好き。

(下)
「上」より「下」のほうがおもしろい!

「本能寺の変」で明智光秀が信長を討つという歴史的事実は知っていたけど、本書の中盤くらいまで読んでみて、光秀は家臣の中でも1~2位を争う程、信長の評価が高い。

光秀も信長には恩がある。そんな光秀がなぜ信長を討たなければならなかったのか?

この視点で読みすすめていたんだけど、中盤から後半にかけて一気に展開が加速する。

その展開に「アリの法則」が絶妙に絡んでいて「本能寺の変」は「起こるべくして起こった」という印象を受けた。

「2:6:2」の法則を信長は「なぜそうなるのか?」と捉え、秀吉は「そうなるのは決まっていることで、それをどう活用するかが重要」と捉える。

丹羽長秀は自分は「2:6:2」の「6」でいいのだと捉えた。

それぞれの倫理感の違いみたいな描写も面白かった。

古く伝えられている原理・原則と「天才武将、信長の人生」を巧妙にリンクさせる描写力はすごい。

3:著者略歴

垣根涼介
1966年長崎県生まれ。筑波大学卒業。

2000年『午前三時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞。04年『ワイルド・ソウル』で、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞の史上初となる3冠受賞。

その後も05年『君たちに明日はない』で山本周五郎賞、16年『室町無頼』で「本屋が選ぶ時代小説大賞」を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※「BOOK著者紹介情報」